「品質表示のタグを付けずに売ってしまったが、これは違法なのか。罰金が来るのか」。ネットショップを立ち上げたばかりの方や、卸売りが初めて決まったブランドの方から、この質問を定期的に受けます。多くは自分で気づいたのではなく、取引先の検品やモールの審査で指摘されて初めて事の重さを知る、という順番です。
結論から書きます。家庭用品品質表示法に違反しても、いきなり罰金が科されるわけではありません。行政の手続きは「指示 → 公表 → 命令 → 罰則」と段階を踏みます。ただし実務で先に効いてくるのは行政処分ではなく、取引先とプラットフォームの判断です。私たちはアパレルOEM会社として表示不備の後始末に何度も立ち会ってきましたが、行政に呼ばれるより先に納品が止まり、タグの付け替え作業が発生します。その順番を知っておくほうが役に立ちます。
1. 表示義務を負うのは「自分のブランド名で売る人」
家庭用品品質表示法は、繊維製品を含む家庭用品について、製造業者・販売業者・表示業者に表示の義務を課しています。ここでいう義務者は、工場ではなくその製品を自分の名前で市場に出す事業者です。OEMで作らせた場合も、自分でミシンを踏んだ場合も、売る主体が義務を負う点は変わりません。
繊維製品で求められる主な表示事項は次の3つです。
- 繊維の組成——「綿100%」「綿60% ポリエステル40%」といった混率
- 家庭洗濯等取扱い方法——JIS L0001に基づく洗濯表示記号
- 表示者名と連絡先——事業者の氏名または名称と、住所または電話番号
品目によっては、はっ水性など追加の表示が必要なものもあります。「工場が付けてくれると思っていた」は義務の所在を変えません。表示の最終責任はブランド側にあります。
2. 行政の動きは4段階で進む
違反が判明したときの流れは、法律上おおむね次の順です。
第1段階:指示
表示すべき事項が表示されていない、あるいは表示方法が適正でないと判断されると、まず表示を適正にするよう指示が出ます。窓口は消費者庁ですが、都道府県の消費生活部門が動くこともあります。多くのケースはここで是正され、名前が表に出ることもありません。
第2段階:公表
指示に従わない場合、その旨が公表されます。事業者名が出る段階です。中小ブランドにとっては、この時点で取引先やSNSに伝わり、実害は罰則より先に発生します。
第3段階:命令
消費者の利益が著しく害されるおそれがあると判断された場合には、表示を行うこと等を命じる措置がとられます。ここまで来るのは、指摘を無視し続けた、あるいは被害が広がっているケースです。
第4段階:罰則
命令に違反した場合には罰則の規定が置かれています。法人であっても個人事業主であっても対象です。ただし具体的な刑の水準は条文の改正で変わり得るため、実際に指摘を受けた場合は消費者庁が公開している最新の条文で確認してください。ここで覚えておくべきなのは金額ではなく、罰則は「表示がなかったこと」ではなく「命令に従わなかったこと」に対して科されるという構造です。指摘された段階で直せば、罰則の話にはなりません。
3. 実務で先に来るのは行政ではない
私たちが現場で見てきた限り、表示不備で最初に困るのは次の場面です。
- 卸先の検品でハネられる——セレクトショップや百貨店の納品基準には、まず品質表示の有無が入っています
- モールで出品が止まる——大手のファッションECでは出品時に組成と取扱い表示の登録を求められ、登録できなければ販売ページが公開できません
- 付け替え作業が発生する——縫い上がった製品にタグを付けるには、縫製を一部ほどいて縫い直すしかありません。1枚あたり数分の手作業で、数百枚なら数日と相応の外注費がかかります
最初からタグを入れておけば縫製工程に組み込まれるのでコストはほとんど増えませんが、後から直すと製品を集め直し、一枚ずつ作業し、検品し直すことになります。後追いの手間は、最初に正しく付ける手間の数十倍です。
4. 指摘されやすい3つの型
型1:タグそのものがない
ハンドメイド販売や少量のオリジナルグッズで最も多い型です。友人に配る分には問題になりませんが、対価を得て販売した時点で表示義務の対象になります。
型2:混率が実物と違う
生地屋から聞いた数字をそのまま書いたが、実際は混紡だった、というケースです。これは家庭用品品質表示法だけの問題では済みません。「綿100%」と書いて実際は化学繊維が入っていれば、消費者に実際より良いものと誤認させる表示として景品表示法の観点からも問題になり得ます。組成は必ず生地の仕様書か試験成績書を根拠にしてください。
型3:記号が古い、または実物と合っていない
現行の洗濯表示記号はJIS L0001に基づくもので、2016年12月に新しい体系へ切り替わりました。旧記号のままのタグをいまも在庫として使っているケースが、古い副資材を抱えている事業者でときどき見つかります。また、タンブル乾燥禁止にすべきプリント製品に乾燥可の記号を入れていた、といった内容の誤りも指摘の対象です。
5. 間違いに気づいたときの手順
- 在庫と販売済みを切り分ける——まだ出ていない在庫は付け替えで解決できます。先に手を付けるべきはこちらです
- 組成の根拠を取り直す——工場や生地屋に仕様書を再請求します。口頭の記憶で書き直さないでください
- 在庫にタグを付ける——組成と取扱い表示は、外れてしまう下げ札だけで済ませるのではなく、製品本体に縫い付けるなど容易に離れない方法で付けるのが原則です
- 販売済み分の対応を決める——洗濯事故につながる誤り(例:水洗い不可の製品に洗濯可と表示)なら購入者への案内を検討します。表示漏れのみなら次回以降の是正で足りる場合が多いです
- 発注仕様書に項目を足す——発注書にタグの内容・位置・枚数を明記します。ここを口頭で済ませている限り同じ抜けが繰り返されます
6. 「知らなかった」を前提に制度は作られていない
この法律は、消費者が商品を正しく選び、正しく手入れできるようにするためのものです。取り締まりが目的の制度ではないので、指摘された時点で直せば罰則まで進むことはまずありません。怖いのは罰則ではなく、直すのが遅れて販路と信用を失うことです。組成・記号・表示者名の3つを最初のサンプル段階で決めてしまえば、以降の生産で悩む必要はなくなります。